お客様を持つということ

 今の会社に転職して1,2年経った頃、昔勤めていた会社と仕事をすることがあり、その担当者の方が先輩で、一頻り転職の経緯などを話した後、その先輩が「これからはどこかのお客さんと強い関係を築いてやっていくことになるんやろねえ」ということを仰った。そのときは、その言葉の意味を、よく判ったつもりでいたのだけど、今、ふと思い出した。

 お客様を担当するというのは、そのお客様に自社との取引をする気持ちになって頂けるのが大前提だから、お客様に信頼してもらえなくてはならない。一方、自分の会社が存続するためには、存続している間は継続的に売上がなければならない。つまり、長期に渡って自社を信用してくれるお客様を持つか、自社と取引してくれる会社を次々と見つけていくか、ということに大雑把に分けられる。

 信用してもらうためには、一定の時間がかかる。一時期だけなら信用してもらうのは容易い。続けられそうもない許容量オーバーなサービスと努力を集中すればいい。そうすれば、とっかかりの信用は得られる。でもそれは、会社として継続可能なものではない。なぜなら「個人営業」だから。
 こういった許容量オーバーなサービスを欲する会社というのは、成長企業であることが多いから、金払いもよいことが多い。成長途上ということは会社としてもまだ小規模で小回りが利く。しかし、成長企業の金回りの良さというのは、それらの企業群のうちの多くが消えてなくなる。つまり、信用してもらうための努力を続けても無駄になる可能性が高い。それを承知で、多数の会社を相手に取引相手を次々と見つけていくやり方になる。この戦法は、続かない。なぜなら、もともと許容量オーバーなサービスと努力を集中しているから。それは、会社として提供できるサービスではないからだ。

 目下、スタートアップとかベンチャーとか企業とか、新興企業が持てはやされて久しいけれど、それらの企業は多くが消えてなくなるというリスクを、取引相手として見たときに忘れてしまっている会社は結構多いと思う。長く続いている業種業界は、長く続いているだけの理由がある。そういった会社と取引をするためのスタンスというのは、いかに信用してもらい、それが長期的に継続できるものかという、非常に高度なものになる。それこそが「お客様を持つということ」だと思う。