『夜は短し歩けよ乙女』���森見登美彦

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
森見 登美彦
角川グループパブリッシング  2008-12-25

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 妄想逞しく意気地果てしなくしょぼい「先輩」と、その先輩が想いを寄せる、天真爛漫が過ぎて天然全開の「黒髪の乙女」の恋愛ファンタジー。

 荒唐無稽な面白さ、なんと言ってもこの文体と洒脱な名詞の数々。「韋駄天コタツ」なんて、何度でも口の中で転がしたくなるゴロの良さ。思い切ったこの時代錯誤感が、「先輩」と「黒髪の乙女」のあまりの晩熟さにリアルを与えてる。あんなに晩稲な大学生、今どきいないだろう���と思いつつ、実は意外とごろごろしてるってのも知ってるんだけど、それを正面切って書くと古臭いウソ臭い感じになるところ、この明治の娯楽小説然とした文体で持ってワラカシにかかることで逆に胸を締め付けさせられます。

 煩悩の塊である男の性と、それをこっぱずかしく思う青春時代の甘酸っぱさが余すところなく描かれてます。自分にもあったそんな頃に思いを馳せてしまう名品です。

 

p57「満座が驚愕した」
p59「お父さん、私は気にしてないよ。エロオヤジでも何でもいいよべつに」
p110「その谷崎を雑誌上で批判して、文学上の論争を展開したのが芥川龍之介」
p154「この阿呆の祭典」
p162「大げさに顔を歪めた。楽しんでいるのは明らかだ」
p172「チクショウ、俺も彼女の眼中にない���」
p264「だがしかし、恋に恋する男たちの、分けへだてない不気味さよ���」
p312「私は性欲に流される、私は世の風潮に抗えない、私は一人の寂しさに耐えられない」
p316「このままでは他愛もないことを話し、延々と珈琲を飲むだけになりかねない、そんなことをして楽しいのか。」