『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』���中川政七商店 十三代 中川淳

奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。
日経デザイン
日経BP出版センター  2008-10-23

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奈良晒を扱う老舗「中川政七商店」の十三代、中川淳による、地方中小企業の経営実践録。

帯に「中小企業こそ、ブランディングが必要なのだ������」とある通り、中小企業が生き残るためのブランディングの実践方法が記されている。実際に「遊中川」「粋更」というブランドを立ち上げた経緯で書かれているので、とても参考になる。一般的な「教科書」と決定的に違うのは、そういう実践録的な部分ともうひとつ、「売るべき素材」として確固たる伝統工芸品があったこと以外は、特にブランド確立に有利な条件が何かあった訳ではなく、ひとつひとつ問題解決した結果であるということ。こういう本は、読んでみて「なんだ、それならうまくいくに決まってるじゃんよ」と言いたくなることが多いが、この本は、特別なことは何もないところから、ひとつひとつ問題解決してやってきた道のりがよくわかるように書かれている。

もうひとつ出色なのは、「これはあくまで中小企業のやり方」「行動にはそれぞれ状況に応じたタイミングがある」というふうに書かれていること。この方法が、どんな状況にも当てはまるとは全然言っていない。当てはまりそうな中小企業に対してさえ、会社の成長のタイミングに応じたアクションがある、とはっきり書いている。こういう細かいところが積み重なって、これは単なる中小企業向けブランディング本ではなくて、ビジネスパーソン全般に対する心構えの書になっていると思う。当たり前のことが当たり前に書かれているだけのようだが、こういう本がもっともっと評価されてしかるべきだと思う。

実際、僕はあんまり突飛なことや、近道や、テクニックを駆使した稼ぎ方とかが苦手で、全うな業務を全うにやり遂げたいと思うタイプなのだが、そういう人にとって本書は大変な励ましになると思う。心のよりどころにできるような一冊。

p12「生産管理のIT化」
p39「こつこつと積み上げていくことが好きだから」
p59「売り上げにどれだけつながるともわからない広告に投資するくらいなら、着実に売り上げを生み出してくれるショップを持つ方が次につながる」
p59「それなのに、誰か担当者にすべてを任せて、一年以内に結果を出しなさい、と求めてしまう。どだい無理な話である。」
→トヨタの「カネで買ってくる」話に繋がる。外部から専門性の高い人材をカネで引き抜いて、数値で測れる結果でもって成功とする経営で、失われるものは何だろうか���説明できるようにする。
p65「売る人がリスクを取らない、つまり誰も真剣に売らない」
p74「そこで商品を選ぶ役割を代行するビジネスが成立し始めた」
p94「変えるべきこと」と「変えてはならないこと」
p98「徹底したIT化」
p99「単品管理」
p116「誰も広告なんて見ていない」
p151「ロジックで積み上げた後に飛躍できること。そしてその一つひとつの飛躍が全体として整合性が取れていることが重要である」
p171「そんなどん底の状態にあるとき、私自身が初めて社外のデザイナー「sinato」と仕事をする機会を得た。」
p180「こういうお店に置いてもらえるようなイメージ」と話をしていたカッシーナ
p190「奈良の良さ���奥ゆかしさ」
p212「坂井直樹 エモーショナル・プログラムバイブル」
p216「売れるから柄物だけでいいとするのは、ビジネスとしては実は危険」