『ノーと私』���デルフィーヌ・ドゥ・ヴィガン

ノーと私
Delphine De Vigan 加藤 かおり
日本放送出版協会  2008-11

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 発表テーマに路上生活者を選んだ、飛び級で高校に通う13歳の「私」、ルーは同じ年くらいに見える路上生活者、ノーに声をかけた。

 まず僕は恥ずかしいことにフランスでホームレス問題がこんなに一般的なことだということを知らなかった。ヨーロッパの高失業率や若者の求職デモのニュースを見たことはあるものの、そしてホームレスの定義が野宿生活者だけではないという違いもあるものの、若い女性のホームレスがどうも珍しいことではない、という雰囲気が物語から読み取れ、驚くばかりだった。ホームレスの問題自体は、日本と類似しているところも多く、例えば「住所がなければ仕事もない」。戸籍制度の独自性などで、定住を社会的信用のひとつと見なすのは日本の特徴と勘違いしていたが、住所がなければ仕事もないのは欧州も同じのようだ。最近、BIG ISSUEを定期的に購入したりして、ホームレスという問題を知ってみようと努力していたところだけに���どちらかというと僕は少し前まで、ホームレスを努力不足の問題としか見れていなかった���、とてもいいタイミングでこの本に出会えた。

 でもこの本は、社会派小説などではない。ルーの「冒険譚」と言っていい、と思う。現代のハックルベリー・フィン。ルーは、ノーを家に連れて帰りたいと思い、両親を説得する。これが、フランスでなら有得ることなのかどうかは分からないけれど、日本ではおよそ考えられない。およそ考えられないところが、日本の問題の根深さでもある気がする。ルーは、自分の信念に従って行動する。夢を追い求める。そして、夢が現実に負けてしまう悲しみも経験する。フランスにおけるホームレス問題、という地域性とテーマを軸にしながら、少女が冒険の末に成長していく物語は、日本の物語でもおなじみの形式だ。

 ただ、物語の最後が大きく違う。一緒に家を出よう、一緒に船でアイルランドに行こう、と駅まで一緒に来たのに、ノーはルーを置き去りにする。その、���予感はしていた���悲しい別れのあと、独り家まで歩いて帰るルーは、俯かずこう思う。「私は成長していた。怖くはなかった」。そして、頑固で守旧的な教師の典型のように見えていたマラン先生は、ルーにこういうのだ。

 「あきらめるんじゃないぞ」

 最近の日本の物語は、何もかも「あるがまま」「自然がいい」と言わんばかりに、悲しい運命をただ情緒的に受け止めるばかりに流れていやしないだろうか���叙情は確かに素晴らしい日本の感性だけど、現実はもはやそれだけでは未来の情緒を失うところまで来てしまっている。「あるがまま」が「なすすべなく」とイコールになったとき、その先にあるのは退廃だろう。成長がなければ意味がないとは言わない。けれど、困難に流されるだけでなく乗り越えようとすることには意味があり、人間性の最も大事な何かであることは間違いないと思う。


 

 


���������「いざ口にする段になると、言葉は混乱し、あちこちに散らばってしまう。だから私は、人前で語ったり、スピーチしたりすることを避けてきた」
���������「「���������とか」や、「���������なんか」のような言葉は、面倒だから、時間がないから、あるいは言いあらわせられないから、といった理由であえて口には出さない、さまざまなことがらを示すためにあるということを、」
���������「インターネットで情報を補い、」
���������「人間は、・・・そして、路上で人を死なせることもできる。」
������������「そして百三十七億後年が可視宇宙の半径だ。」
������������「ノーは仕事を探した。・・・住所がなければ仕事もない。」
������������「正・反・合」
������������「私はそれを、ぜったいに克服できない重大な病気、大きな障害のように受け止めた。」
������������「自分が信頼されているかどうか絶えず気にする人こそ、あなたを裏切る最初の人になるでしょう。」
������������「職場で二十五人の部下を率いているのもうなずける」
������������「つねに現実が勝利して、夢は知らないうちに消えていく。」
������������「ノーはもう、モモの世界の人じゃない。私たちの世界の人でもない。」
������������「なにも言えなかった。先生には、ちゃんとわかったのだ。私の不器用さとか、私が世の中の流れに逆らおうとしていることとかが。」
������������「レアとアクセルを前にしたリュカの、自信満々のリラックスした態度がいやになる。」
������������「不満を目に見える形であらわすためだけだ。ずるずる長引く前に、きっぱりやめなければならない」
������������「この先ずっと、ノーと外で暮らすんだ、と。」
������������「あきらめるんじゃないぞ」