独走会 - 2018/07/01 津 95.6km

覚えてもらえているというのは、どういうことか。

 思えば本当に人とのつながりを粗末にしてきた人生で、人生のステージが変わる度にそれまでの人間関係をばっさり絶ってきた。中学生から高校生になったときもそうだし、高校生から大学生になったときもそうだし、大学生から社会人になったときも、社会人で転職したときも。より現在に近いステージの人間関係はまだそれでもいくつか保ってもらっている人たちがいるけれど、学生時分は本当に酷かった。保育園の頃からの友達で、高校進学で別々の高校に進んでしばらく疎遠になっていたマエちゃんから社会人になったかならないかくらいの年に不意に年賀状をもらい、そこに「返事はいいよ!永遠に友達!」と書かれていたのを読み、返事を出そうかと思ったものの「返事はいいよ」と書いてあるのだし出したら却って迷惑なのだろう、などと考えられない薄情さでそのままにしてしまったり、中学生時代、MSXでゲームづくりに夢中だった僕は、同じようにゲームづくりが好きなドンちゃんとゲーム制作グループのマネごとをやっていて、PCを持てなかったどちらかというと厳しい家計の家庭で育っていたドンちゃんにゲームシナリオを描いてもらい、それを僕がプログラミングするということをやっていたのだけど、中3も夏休みをすぎると流石に時間が追いつかなくなり、それでもドンちゃんは毎月律儀にシナリオを書いて渡してくれ、一向に出来上がらない状況にも「いいねんいいねん楽しいから」と何も言わず、そうこうしているうちに受験も終わり、ドンちゃんとも違う学校に進むことになり、その少しの罪悪感も新しい高校での仲間に馴染んでいくうちに薄れていって忘れてしまった。

 流石に社会人になって何度か転職してしばらくして、この人間関係の粗末さ加減は取り返しがつかないと気づいたものの、そのときはもう本当に取り返しがつかなかった。周りはみんな、人間関係というものをビジネスでも十全に利用していた。それは至極当然のことだった。ビジネスは人と人がやるのだから。中途半端にテック界隈を過ごしてしまった己の勘違いを恥じた。それでもせめて並のテックスキルがあれば渡っていけただろうけど、もはや僕にはコーディングのスキルすらなかった。

 どれだけSNSが浸透しても、会わなければ関係は希薄になる。ところが、僕のことを覚えてくれている人がいる。例えば、TRANSITで出会った向井さん、ヤッさん、キンコさん。去年は不意に昔の会社の恩師が連絡をくれたりもしたし、当時のビジネスパートナーで一緒に仕事をさせてもらっていた方からも連絡を頂いたりした。

 覚えてもらえているということは、どういうことだろう?

 もう二度と会わなそうな人なら、もうどうでもいいじゃないか。僕の薄情さは、紛い物の潔さと根っからの無精で成り立っていた。だから、一期一会とか、まったくよくわからなかった。だけど、そんな薄情さを全面に出している僕を覚えてくれている人たちがいる。

 自分を思い出してみようと、100km走れる、故郷を辿るルートを選んでみた。


 笠置。いつか早朝に事故に遭ったことを思い出す。


 上野。母校の周りに並ぶ家庭教師の幟。あそこにも間違いなく僕の人生の分岐点があった。


 長野峠。大学生の頃から未知に挑まない性分だったから、完全に地元と言える場所なのに知ったのはほんとにロードバイクで走ってから。


 津。今、間違いなく僕は再び人生の分岐点にいる。いい加減にやり過ごしてしまった時間は取り戻せない。それでも僕のことを覚えてくれている人たちがいる。もうマエちゃんやドンちゃんは僕のことを忘れているだろうし、僕の後悔なんて朝露よりも小さい、気にも止めないようなことだろう、だから僕から声を掛けることはもうできないだろう、だから、だからこそ、僕は今まで僕と関わってくれた人々に感謝の気持ちひとつを忘れずに生きていこう。

 ”いくら舌打ちしても 戻らない日々よ”
 (『ミエナイチカラ』/B'z)

 そう思いながら到着の写真を2,3枚撮っていたら、おじいさんが話しかけてきた。「遠くからおいでですか?」一期一会の意味を少しだけわかった僕は、おじいさんの奥さんであろうおばあさんが「おじいさん、早く」と横断歩道の向こうから急かすまでの五分ほどを、淀みなく会話することができた。

 知っている道でも走る度に新しい道になる。独り走るのはどの道を走るのであっても、新しい道を探すことに同じ。

 以下、箇条書き:

  • 今回は本当に調子がよかった。60km過ぎからのいつものペースダウンも乗り越えることができた。後半も、太ももの痛みで回すのが嫌になることなく、走り終わってもまだ体力に余力があった。
  • この好調に思い当たるのは毎日のストレッチか。ハムストリングスが硬いのはよくないと分かっていたので、ここしばらく就寝前の運動はストレッチとブリッジにしていた。
  • ストレッチとブリッジにできたのは、毎日のローラーを4分インターバルから普通の10分間走に変え、体重コントロールはこっちでいいかなと思ったから。もちろん、ペダリングの改善にも繋がっていたと思う。
  • 今回の課題は向かい風。伊賀上野抜けて長野峠までの20km、平均3%くらいの登りがだらだらと続くところをずっと向かい風で辛かった。それでも気持ちが萎えることなく登りきれた。
  • 休憩のタイミングで毎回しっかり補給するようにしてみた。塩おにぎり1個とエナジーチャージ系のゼリー1つ。28kmの笠置と50kmの伊賀上野で。伊賀上野ではメイタンも。これがよかったのだと思う。
  • SUEWを今回始めて完璧に装着できた気がする。
  • チェーンが、特定のギアのときにカシャカシャいってる気がする。抵抗はないし速度も問題なく出てるので支障はないんだろうけど一度チェックする。