『Hurt』/syrup16g

初めて聴いたシロップは802でヘビーローテーションだった"Reborn"。


"DELAYED"聴いて"HELL SEE"聴いて"Mouth to Mouse"聴いて。"HELL SEE"の"吐く血"で完全にすぶすぶでした。人生いいことばっかじゃないというのが真理というような、冷めたというか拗ねたというか高校卒業とともにバブル崩壊した世代によくある人生観を頑なに守っていた人間にはぴったりフィットして。わざわざ、人生の暗い部分、どうにもならない部分に浸りたがるというか嵌りたがるというか、そういうのがあるんだからそこから目を背けたらダメ、それは逃げだ、というようなスタンスで。

けれどいつからかいつの間にかそういう感受性も流石に衰えて、「わざわざ目を向けなくったってそういう辛いことは起きるんだから、今起きていない状況に素直に感謝していいことだけを考えて生きるほうが建設的」「いいことだけに目を向けて生きるほうが、いいことが起きる状況を引き寄せる」という考え方にだんだん靡いて、そうするとシロップのような、否定しきれないダメ部分をこれでもかとぶつけてくるような音楽を聴いてそこにどっぷりはまっていくのに怖気づいてしまって。入ってしまうと戻ってこれないような、あのどっぷり感は抗いがたい魅力があるけれどあるが故に近づいてしまうことに怖れもあって。

だから"Hurt"のリリースを知ったとき、”聴きたい!”というのと同時に”怖い!”という気持ちも湧き上がって相当躊躇した。けれど結局抗いきれず買った。買ったけど聴くのに一週間かかった。そして聴いた。

確かにいろんなレビューで書かれてたように、かつてのシロップのような破壊力がないような気がするし、かつてのシロップから何か劇的に進化したり変化したりしたところもないような気がする。”生きているよりマシさ”なんていう、タイトルそのまんまで”死んでいるほうがマシさ 生きているよりマシさ”と歌う曲があるにも関わらず、かつてのシロップのような胸を締め付けられる高揚感はそれほどきつくない。”Stop Brain"の、思い切りキャッチーな明るい曲調で”Stop Brain 思考停止が唯一の希望"と歌うサビも、割と気軽に口ずさめてしまう。

これは自分の感受性がいよいよ地に落ちたのか、恐れていたよりも安易にどっぷりはまってしまったのか、それともシロップが元の復活も果たせてないのか。でも何度も聴いて、そのどれでもないと。シロップは、解散前と同じように、日本のザ・スミスと言われるような、ダメ人間がダメ人間としてダメ人間を歌っているようで、実はそこから飛躍して今の姿で帰ってきたんだと思った。”ゆびきりをしたのは”で”勇気を使いたいんだろ”と言っているのが、変にひねくれただけじゃなくて言葉通りの意味を言ってるんじゃないかと思うくらいに。暗い部分を目にして暗い部分を扱ってそこに溺れたとしても、ただそれだけでいいじゃないかとはならないし、ならなくてもそういう人生にとって大切な暗い部分を侮辱も冒涜もしたことにならないんだよと言えるところまで来たんじゃないかなと。そうじゃなけりゃ、年食う値打ちもないでしょと。

聴いてよかった。

B00LBX5X4I Hurt
syrup16g
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT 2014-08-26

by G-Tools