『わたしを離さないで』/カズオ・イシグロ

読み終えて一番思っていることは、「我々はいずれ必ず死ぬのだ」、ということだった。この物語に登場するキャシー、トミー、ルースたちは特殊な事情で、特殊な生を受け、特殊な使命を負わされ果たしてそのとき死んでいくことが予め決定されていて予見もされていて、それが非常に辛く残酷なことだと感じるが、「死ぬ」ということ自体は彼らだけに特殊なことではなく、我々は皆、いずれ死ぬ。だから、死ぬこと自体はそれほど絶望しなければならないことではないし、しかしながら重大なものとして常に日々意識して生きていかなければいけないと思わされた。それは特にこの一文にたどり着いたときだ。

それは、時間切れ、ということです。やりたいことはいずれできると思ってきましたが、それは間違いで、すぐにも行動を起こさないと、機会は永遠に失われるかもしれない、ということです。

ひとつだけ、彼らは100%子供をつくることができない身で生まれている。そして、人を愛するという心に強く引き付けられているにも関わらず、相手は誰でも構わないからとにかくセックスがしたいという瞬間があるという描写がある。彼らがとにかく「生」を全うしたい、燃焼したい、という、生命体としての本能を無意識に全開にするところに触れるたび、逆説的に、自分も残り時間を無駄にしないように、時間切れにならないように生きていかなければならない、と繰り返し思った。

4151200517 わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロ 土屋政雄
早川書房 2008-08-22

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