『YELLOW』/稲葉浩志

つくづく、自分の青春時代からずっと、同時代を生きてる近い世代のアーティストが現役でい続けてくれることのありがたさを再確認。

少し疲れ気味になると耳の奥頭の底でフェードインしてくる昔の曲。なんという言葉でもってその郷愁を言えばいいのかわからないくらいの郷愁が同時に沸き上がる感じ。もちろんその時に帰ることはできないから、郷愁を胸の中で千切れるまで掻き毟るしかない。そんなふうなことを折につけ吐露していたら、この曲だ。

”むせかえるような砂浜で
繰り返し流れていた歌が
この細い腕をつかんで
連れ戻してくれる
穢れなど知らぬ頃の自分に"
"もうそこには帰れない
寂しさ嚙み締め叫びます"

これに魂を鷲掴みにされ、ここまでシンクロしたら堪らんなあと思ってたら、こう来る:

”他人の哀しみなど
分からなくても泣いてみせる"

せせら笑われているようなこの感じ!

それでも、全編通じて振り返っては悔やむばっかり、”全部チャラにしてくれ”と太陽に願うくらいの心情が、最後のサビで一気に急展開して、

”全部チャラにしなくてもいい”
”もうどこにも帰らない
何も怖くないと叫びます”

結論的にはこれしかなくて、すでに"パーフェクトライフ"で提示されているモチーフなんだけど、”パーフェクトライフ”と違って、恋愛軸がぜんぜん入ってない分、中年男が抱く”ここまで来てしまった感”を突破するエネルギーがダイレクト。最後のサビはほんとにコンパクトで、内容的には比較的軽いものなんだけど、そのシンプルさこそが中年が前を向くために必要なものなのだ。厚顔無恥にはやっていけない生真面目さが残ってしまう中年が前を向くためには。そこはシンクロしているに違いないと思う。

ちなみに(今のところ)配信限定です。