『弱いつながり』/東浩紀

ぜひ、電子書籍で読むことをお勧めします!(気分的に)

「弱いつながり」というのは、私は「偶然」という言葉と重ねあわせながら読みました。本著は、「人は、自分を変えることはできない」と宣言しますが、それは「自分で自分を変えることはできず、自分で変えることができるのは自分が身を置く環境。人間は環境に規定されるので、環境を変えることで自分を変えることしかできない」というふうに私は読みました。

ネットは見知らぬ何かを知ることのできるツールではもはやなくなっていて、知っているものをより知ることしか、すでにつながっているものとのつながりを強化することしかできないツールになっている。検索があると言っても、検索ワードは自分がすでに知っていることだから、結局、自分が知っていることをより知るだけ、すでにつながっているものとより強くつながるだけ。だからネットは「強いつながり」。しかし自分を変えるためには未知が必要。例えばいつも仕事で会話するよく知った関係者ではなく、自分のことをあまり知らない、パーティで知り合った人のような。その「未知」に出会うためには新しい検索ワードを手に入れる必要があり、新しい検索ワードを手に入れるためには環境を変える必要があり、その具体的な手段は「旅」だと。

ものすごく納得させられました。「自分を変えることはできない」と言われると反発したくなるのが自然な反応だと思いますが、環境に規定されるというのは一旦は認めなければいけない事実だと思います。そして、意図的に変えることができるのは環境なのだから、自分を変えるために、環境を変えようという方策は非常に力強いと思います。そして、リアルに対して「弱いつながり」という、一見するだけではネガティブに映る言葉を当てたところが良いなと思います。

私はamazonを長く愛用してますが、レコメンドが始まった頃から、「なんであれ、今までの自分の行動をベースにしたレコメンドなんてつまらないし興味ない」と無視して来ました。その天邪鬼の奥底にあるのは本著のこういうスタンスではないかなと思います。どうやって「偶然」を手にするか。どれだけビッグデータが進展してもデータがリアルに勝てないのは、「偶然」はリアルにしか存在しないと言えるからじゃないでしょうか。

もうひとつ、私にとって大きい箇所はここでした:

 そこらあたりから、人生のリソースには限りがあって、ずっと最先端の情報を取り続けるのは無理なんだな、と思うようになりました。単に体力勝負ではない、別の方法での記号の広げかたはないのかと考えるようになりました。

 年齢的には早いですが、それは「老い」について考え始めたということでもあります。広大なネットをまえにしていても、年齢を重ねると、情報のフィルターが目詰まりを起こし、新たな検索ワードを思いつかなくなる、ときどきフィルターの掃除をやらねばなりません。

 そこでぼくは、本を読んだりアニメを見たりするかわりに、休暇では外国に行くようにライフスタイルを変えました。

 全く同じことを数年前から考えていて、それについてどうするのかというのを試行錯誤し、うまく行かず苛立ちながらここまで来たというのが実感ですが、同じ問題意識を読むことが出来たのは幸運でした。そして、「老い」に対する対処として、「自分は変えられない。環境を変えるしかない」という認識から「旅」が導かれたのを読めたことも。私がロングライドに惹かれたのは、この「旅」と同じなのかも知れません。外国ほど大きな環境変化を齎せませんが、日常ととてつもない切断を生み出す多大な身体経験があります。そして実際に移動を伴います。現代において本来なら掛ける必要のない時間を敢えてかけて身体経験を伴って移動するロングライドは、本著が言う「旅」の意味の何割かは共有していると思います。