『ヤバい日本経済』/山口正洋・山崎元・吉崎達彦

およそ経済人というのはこういうスタンスなんだよなあ、というのがよく分かる一冊でした。

経済人というのは、「目の前に起きている出来事をきちんと受け入れる」人たちだと思います。とともに、起きる出来事や予想される環境の変化に無批判な人たちでもあると思います。例えば本著の中で、

日本の国債を5億円分買った外国人には日本の国籍をあげる、といったら世界中から金持ちが集まってきますよ

という記述があります。これは、「日本全体が景気回復を実感するためには、都心だけでなく近郊の地価も回復し、住宅資産の資産価値が回復する必要がある」という主張の流れで、土地購入の需要を増やすためには外国人の土地取得規制を緩和が有効という話になり、その延長線上で登場するのですが、外国からおカネを呼び込まなければ日本の経済が好転しないというのは事実だと思うし、そのために日本国籍をエサに使うというのも日本国籍は訴求力があるので事実だと思うんですが、一般庶民の感覚で言って、いくら5億円払える人に変な人はいないと言っても、カネで国籍を売るのは国家としてどうなんだろう?と単純に疑問に思う訳です。そうやって世界の金持ちばっかり集めて維持されていく国を、果たして我々は求めるんだろうか?というと、「じゃあ座して死を待つのか?」と切り返される予想がすぐに立ち、この辺が「2030年、老人も自治体も”尊厳死”しかない」とか、「日本経済"撤退戦"論」とかに繋がるのだと思います。最近、私がよく目にするのはこの「だってカネいるでしょ、カネ?」という経済人のスタンスと、「如何に滅亡に向かってソフトランディングすべきか」という、二極のオピニオンです。

本著の他の例を挙げると、「日本のギャンブル市場は世界有数」とあって、パチンコで既に20兆円規模の市場なのだから、年間売上1兆円強を見込めるカジノを解禁して外国人富裕層を呼び込むべき、というのもあって、確かにカジノは有力な産業に違いないけれど、それが「日本」という国のアイデンティティにフィットするのか、という感覚はない訳です。大阪の夢島にカジノを作れば、周辺には奈良や京都という世界遺産もあり、富裕層向けに格好だというのですが、少なくとも奈良県人としては、奈良の文化をカジノのついでにされたくはないし、一時はそれで潤うかもしれませんが、1,300年保たれてきたイメージー本著の論に沿って言い換えるなら観光資源ーの消耗スピードを上げ、その結果あっという間に消費されつくすような真似はしたくない訳です。

そういう、倫理観とか「価値観」とか、そんなものに拘泥しているからお前らいつまで経っても貧乏人なんだよ、と言われるのが本著ということになりそうですが、二極化の観点でもう少し考えると、多くのカネを稼ごうとするスタンスが、いったい「何のためにその多くのカネがいるのか?」という、どういう目的意識と結びついているのかで、変わってくるんじゃないかと思います。自分個人の資産を守り、裕福に暮らしたいというレベルであれば、やっぱり「だってカネいるでしょ、カネ?」というスタンスで終わってしまい、単に今日本や世界で起きている事象を単なる「現実」とだけで受け止め、環境変化を単なる「環境変化」とだけで受け止め、カネを稼げることにだけその認識を有効活用することになるんだと思います。

4492396047 ヤバい日本経済
山口 正洋 山崎 元 吉崎 達彦
東洋経済新報社 2014-08-01

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