『沖で待つ』���絲山秋子

沖で待つ (文春文庫)
絲山 秋子
文藝春秋  2009-02

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第134回芥川賞受賞作『沖で待つ』他���編収録。

 『沖で待つ』は、小説を読む意義を再び僕に教えて与えてくれた小説だった。何のために小説を読むのか���小説から何を得るのか���そして、なぜその小説を読んだと表明するのか���その小説から何を得たと、人に伝えるのか���そういった悩みに一本筋を通してくれた。

 小説を読むということは、自分をひけらかすことではない。「こういうものがわかるのだ」と、自分の偉さをひけらかすことでは全くない。そんなエゴやプライドに塗れたコミュニケーションのために利用されるものじゃない。そう思ってきたけど、『沖で待つ』は、まあそんなことがあってもいいじゃないか、となぜか思わされたのだ。これは不思議な感覚だった。

 疲れた気分をぶちまけるような読み方があっても構わないし、そんな自分を戒めるような読み方があっても構わない。別に、明日からの日々の自分に反映するように読まなくったって構わない。自意識過剰はみっともないけれど、まあそれでも構わない。そんな感触が残った。