『時を刻む砂の最後のひとつぶ』���小手鞠るい

時を刻む砂の最後のひとつぶ
小手鞠 るい
文藝春秋  2009-05

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 惜しい感じ。「最後のひとつぶ」という通り、「残された時間」を意識しなければならない立場の人々が現れる連作短編集なんだけど、繋がっている感じがちょっとぎこちない。あれとこれが繋がってるんだよな、これはさっきのあれで出てきた人だよな、と印象はあるんだけど、うまく繋がらない感じ。なので、大事なテーマである、「残された時間」を意識しないといけない人の感情の起伏みたいなものが、短編それぞれで濃淡が違い過ぎてる。どうしても小手鞠るいというと激烈な感情の凄みを読ませてくれる、という期待感があるので、「ショックを受けていない私がいた」と、とてつもない出来事を前にしたときの放心状態を描かれても、文字通りで、切迫感みたいのがいまいちない。「残された時間」という、人生にとって重要なテーマを据えながら、教義めいてないストーリーでおもしろいだけに、ぎこちない感じだけがちょっと残念。
 あと、登場人物が作家というのも、個人的にはあんまり。作家が作家を登場させるというのは、どうにも好きになれない。 

���������「ニール・ヤング」「Heart of Gold」
���������「今月は検挙件数が足りてないじゃないか」
���������「去年までできていたことが、今年はできなくなっている」
���������「豊かな土地よりも痩せた土地に植えた林檎の方が、信じられないくらい、たくさんの実をつける」
���������「電話がスタジオにつながれた瞬間、流れた曲は『コーリング・ユー』。映画『バグダット・カフェ』」
���������「軽く書くためには、重過ぎるほどの錨が必要で、重く書くためには風のように軽い心が必要」
������������「そやな、放っておいたら、夜までかかりそうやし」
������������「ならば、わたしという女は順ちゃんにとって、いったいなんだったのか」
������������「こうした矛盾、不条理を含めて、人はすべてを受容しなくてはならない」
������������「だが、わたしにはない。わたしは、終わってしまったことに、興味はない。執着もしない。」
������������「もとは羊羹か何かが入っていた空き箱に、わたしが千代紙を貼ってこしらえた箱」