|
ほかならぬ人へ 祥伝社 2009-10-27by G-Tools |
帯に「愛するべき真の相手は、どこにいるのだろう���」とある通り、愛する気持ち、恋愛行為というものの本質が具に描かれた小説だけど、僕には読んでて「愛」よりも「死」が眼前に迫ってくるようだった。自分にとっての「死」がリアルに感じられるというんじゃなくて、どこにも普遍的にあるはずなのに、普段は忘れているような「死」という存在が、身近に感じられるというような。徒に恐れることなく、日常に存在しているものなんだから忘れずにいようよ、と言われているような感覚だった。
明生は、親同士が決めた結婚相手だった幼馴染の渚に、「だからさ、人間の人生は、死ぬ前最後の一日でもいいから、そういうベストを見つけられたら成功なんだよ。言ってみれば宝探しとおんなじなんだ」と語る。それは、人に救いをもたらす言葉だけれど、もうそのベストを見つけたことがある、と思い当たる人にとっては、ひょっとしたら人生の残りの時間はただ…とより深い絶望に突き落とすような言葉でもある。明生にこう言われて「ほんの少しだけどすっきりした」と言った渚は、翌日事故で亡くなってしまう。渚は死の前日、この明生の言葉に触れて、「成功」だったと思っていいのだろうか���もしベストを見つけられたとしても、見つけられただけで、その人生は「成功」なんだろうか���渚は確かにベストを「見つけては」いた。
やはり、生きていてこそ愛が輝くのだと思う。どんな形であれ、愛を輝かせるために生き抜いてみせるという力強さは、どんな時代にも必要なものだと思う。