『寝ても覚めても』/柴崎友香

4309020054 寝ても覚めても
柴崎 友香
河出書房新社  2010-09-17

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すこし前、遠出した際、一冊買おうと思ってうろうろして、そう言えば日経か何かの書評見て読みたいと思ってたなと買ってみた。柴崎友香は好みで、結構読んでる。変にテンションを上げていかない、無暗な盛り上がりを作らないところが好きなのだ。

1999年22歳の朝子に始まった恋の、10年間の来歴が語られる恋愛小説。柴崎友香は3,4年振りだと思うんだけど、その昔は読んでいて脳裡にバシバシと響いた、「言葉にならない」感覚というのが、さすがに僕も歳を取ったのか、あまり響かなかったように思う。女の子の、人を好きになる不思議な感性というのが描かれていることは明確にわかるんだけど、気持ちに入っていかない。でもそれは、僕が歳を取って感性が鈍ったということだけではなく、本著の焦点が、単に恋愛だけではないということにもあったのかもしれない。読むとすぐ気づくのが、本著は、頻繁に、2,3行の点描が挟まれる。その2,3行の点描は、そこまでの筋とあんまり関係がないようなあるような。その点描も含めて、「目に見えるもの」を観察し、書き落としていくことに、力点が注がれてる。それが、本著の「読む楽しさ」だと思う。

ストーリーは、全体の2/3くらいまで、かなり緩やかに進むと思う。2/3過ぎから猛チャージが掛かって、胸を抉られるような現場を見せられて、終わる。どの書評も「驚きの結末」みたいなことが書かれてて、2/3過ぎくらいからある程度予想はつくのに、更にそれを裏切るような展開が待っている。この展開は、女の子の恋愛には確かによくあることかも知れない。でも、作者にとってはこの「恋愛」の筋というのは、今回はそれほど重要じゃなかったのかも知れない。

読み終えてまず最初に僕が思ったのは、僕に似てる人が現れてはほしくない、ということだった。僕に似てる人が、僕を知ってる人の前に現れたりしないでほしい、ということだった。遠出した場所で買ってくる本としては最善の選択肢だったんじゃないかと、思う。