『反哲学入門』/木田元

僕にとって哲学は、自分の考え方を壊すためにある。

「反哲学」とは、「従来の哲学にアンチを突きつける」という意味で、ニーチェ以降の「哲学」は「反哲学」なのだと解説されていて、今まで漠然としか判っていなかったこの点を明快にしてくれる。

存在するものを見るとき、それを自分の問題に引き付けて考えることができるかどうかを最重要視してきた自分にとって、「存在者の全体を生きて生成するものと見るか、それを認識や製作のための死せる対象や材料として見るか」という、哲学と反哲学の系譜は大切なものだ。「それはなんであるか」と問うスタンスは、自分はその問題から十分距離を取れた安全地帯から、特権的位置からモノを言っているに過ぎないのだ。自分をその問題に引き寄せようとせず、外野からヤジを飛ばすがごとく物言いがどれほど不愉快なものか。そのスタンスが生み出されてきた歴史というものを、哲学史で深く理解することができる。

そしてハイデガーが行きついた「破壊(デストルクツイオン)」。それも、壊滅するということではない、二重の意味を含まされた「破壊」。自由を得たとき、その自由で何を成すのか。自由であるということは、モノを言える資格のある状態なのか。

心がけで、世の中を変えることなどできない。心がけで変えることができるのは、自分自身だけだ。それを知っている人だけが、心がけで変えることのできた自分自身で、世の中を変えることができるのだ。「ひとりひとりの思いで、世の中を変えられる」と、ひとりひとりに心がけを求める言説を、簡単に口にしたりいいね!といったりシェアしたりする人は、自分を問題の中に入れず、存在者を存在者全体として見ず、自分を特権的位置においてモノを言ってるだけなのだ。

4101320810 反哲学入門 (新潮文庫)
木田 元
新潮社 2010-05-28

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