『ワーク・シフト』/リンダ・グラットン

要は、「今後、最も潰しが聞かなくなる職種は営業です」ということ。

Social Book Reading With Chikirin」で取り上げられていることもあって、ジュンク堂本店で目にして直感的に読まねばと思い東京出張時に丸善本店で買って帰りの新幹線で読んだのですが、正直言って、読まなくてもよかったかな…という内容でした。「未来の働き方」を考えるなら、こないだ奈良で買ってきた『チャルカの旅と雑貨と喫茶のはなし』のほうがよほどプラクティカルでためになります。もちろん、本著のように、学究的なアプローチも知り学び理解しなければいけないのですが、「生きていく」という意味での「食っていく」ためには、何より重要なのは実際的であることです。「「やる」ことは「考える」ことより大切だと思われがちだが、私はそんなことは信じていない」それはそうだし大切なことだけど、考えるだけでは食っていけない人間にとっては、「やる」ための実際的なことが優先されるのです。

そう、本著は、言うなれば「「考える」なら、「考える」の一流になれ」と説く訳です。ITが一層進展し、グローバル化が一層進展する未来の世界では、専門性に磨きに磨きをかけなければ、生き残っていけません、都市部に住んでても貧困層に落っこち、孤独な老後を迎えます、縮めていうとそういうことを言われます。それに関しては何の異存もない。けれどそれは、1990年と比べて、革命というほど大転換したことなのかな?そういうと、「変化のゆっくりさに、変化に気づけない凡庸な一般人」みたいなレッテルを貼られるけれど、1995年に社会に出たIT業界人として、例えば旅費精算一つでも昔はどうやって運賃申請してた?と思いだせないくらい、IT化が進行していることは分かっている訳です。それで、「専門性を磨け。世界と対峙せよ。」と言われて、「おおそうだ。世界と対峙だ。やるやる。」という人間が、どれだけいるのか?と思う訳です。

ましてや、専門性を磨けない今の勤務形態では、あなたは近い将来、ダメになります、と言われても、更に、専門性を磨いて事を起こすためには、今の職は残したまま、ちょっとずつお試ししてみろと言われても、「そりゃそうしたほうがいいって判ってるけどさ~」って誰もが言うと思います。なんかそれだけの中身の本、と纏めてしまいたくなります。それはもちろん、僕が昨年来、いろんな「働き方」の考えに関する書籍を読んできているからであって、今まであまり考えたことのない人にとっては、有用な内容だとは思います。

大きなポイントは、専門性を磨く=高額な金銭的報酬に繋がる、とはどこにも書かれていないこと。専門性を磨くのは、自分の充足感を高めるためだ、という、「第3のシフト」を謳っています。理想論とか空論とか言われてきたけれど、これは実際にこうならないとこの先世の中がほんとうに行き詰ってしまうと思うし、そうなっていく気配は確かに少しずつ感じられる。でも大事なのは、やはりそこには金銭という交換価値は必要で、かつ、金銭的成功を収めたいという人が、倫理観や道徳観に反することなくそれをなし遂げようとするならそれを批判したり嫉妬したりしてはならず、かつ、そうやって富が集中することに対して、富を集積した人が、社会的な活動をする人に「寄付」をすることが至極当然という社会を作っていかなければ、これはうまく回らないと思う、この考えは本著を読む前にすでに自分の中では組み上がっていたことで、本著ではこういうことには触れられていないので、やっぱり自分にとってはそれほど大事ではなかったと言ってよさそうです。

4833420163 ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン 池村 千秋
プレジデント社 2012-07-28

by G-Tools