『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』/ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール

 はじめて電子書籍をリリースして、実感も伴ったところで。

 基本的に僕は紙の書籍が無くなるとは思ってないし、紙の書籍がいいなあという思いも持ってるけれど、盲目的に「本と言えば紙だ」みたいなことを言う人には少し白けてしまう。電子書籍の利便性というのは間違いなくあるし、そもそも、本と言うものが歴史に登場するまでは知は口承だった訳で、その時代には「本って何だよ本って。口承だろ、口承」と思われていたはずなのだ。ノスタルジーにしがみつく姿勢は好きになれないです。

 本著は言わずと知れたウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールが、お互いの家を行き来して行われた対談だそう。「もうすぐ絶滅するという」というタイトルは原タイトルに忠実な訳ではないようだけど、「そんなことちっとも思ってないよ」という空気が出てて、本著によくマッチしてると思います。

 印象に残ってるのは、図書館が全焼するという話がしょっちゅう出てくること。書籍が燃えてしまうということのイメージと、それの象徴的な意味と、そんなこと全然厭わないよ、という3つの軸が展開されるところが面白い。書籍と言えば知、というシンボルと、収集対象、という観点とがあって、めまぐるしく入れ替わる。それと、書籍で興味のあるのは、愚説や嘘の類が書かれているものだ、という箇所。美しいものや優れたものを追いかけていては、人間の知的営みのごく一部しか触れられない、という角度にははっとしたけれど、後半になるにつれて、徐々に若干インテリのスノッブな感じが出てきて語るに落ちたかな、という感じでした。

 でも、書籍の何たるかを考えるには好著だと思います。

4484101130 もうすぐ絶滅するという紙の書物について
ウンベルト・エーコ ジャン=クロード・カリエール 工藤 妙子
阪急コミュニケーションズ 2010-12-17

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