もう人生で二度と見ることのない水仙

私は仕事柄、人よりも少しだけいろんなところに行く機会を貰っていて、いわゆる「地方」に行く機会も少なからず貰っています。ふだん仕事をしている大阪と違って、地方は(まあ、住んでいる奈良もそうなんですが)交通手段がそう便利ではないですから、電車はおろかバスに乗るのにも10分20分歩いたりすることは珍しくないです。

普通はタクシーを呼んだりレンタカーを借りたりするのでしょうが(もちろん私もそうすることが多いですが)、時にふと10分20分歩いてみます。さぼっていることにならない程度に。そうすると、都会のマンション街を通るのとは全然違う、生活感満載の住宅街を通ったりします。都会のマンション街と違って、そんな住宅街を真昼間に通るサラリーマンいないと思うので違和感満載です。

二十代の頃は、そういう寄り道をして、「ああなんか面白いなあ」と思っただけでした。四十歳の今は、「たぶん、ここを通ることはもう人生で二度とないだろうなあ」と思うことが増えました。もちろん、ここに来た理由であるその会社様との仕事が進めば、近々また来るかも知れないですが、その時は社用車で来るかも知れないし、帰りはタクシーを呼ぶかも知れない。ましてやわざわざ、住宅街を縫って表通りに出るようなことをするかどうか、判らない。

広がる田んぼの先に住宅地が並ぶ狭い道を抜け、用水路沿いを歩いていたらふと目に飛び込んだ水仙。なんで自分は今ここにいるのかなあという妙な感覚と、いつもは自分はいないそこに流れている時間と、一生のうちに一度も見ることのない景色と。なんとなく写真を撮りました。