悪気無くても罪は生まれますか? ー 『ペテロの葬列』/宮部みゆき

J-WESTカードの利用で溜まったポイントをICOCAにチャージしたので何か一冊買おうとJR京都駅の三省堂書店に立ち寄り思案して買ったのが『ペテロの葬列』。

ちなみに近くに『永遠の0』が並んでいて、僕は基本的にどんな本でもまず自分で読むまではいいとか悪いとか判断しないと努めているのですが、この本は読むまでもない。国のために純真から命を掛けた方々に対する敬意はもちろんあるが、それを賞賛することで何が起きるのかを考えることは別の話であり分けて考えなければならないこと。それをそんなに賞賛したいなら、自分が国のために命を捧げればいい。今なら国のために命を捧げられることがあるでしょう。福島第一原発の作業とか。実際に差し出すのか、自分の命を?9条もただのお唱えごとで、行動を伴わないお唱えごとに力はないというのなら、国のために命を捧げる派の方々にはぜひ福島第一原発の作業に率先して従事してもらいたい。行動で示してもらいたい。

だから僕は熱心なB'zファンだけど『永遠の翼』を創ったのだけは(『俺は、君のためにこそ死ににいく』の主題歌という仕事を引き受けたのだけは)どうしても評価できないでいる。本当になんで『永遠の0』みたいな本がそれほど評判を呼ぶのか理解できない。

これが、数年前には「とにかく生きろ。何があってもまず自分が生きることを考えて行動するんだ。」という強いメッセージを発信した『20世紀少年』に大熱狂した同じ国民とは思えない。

取り上げるのであれば『風立ちぬ』のように、「その個人の純粋な探求が、本意ならず戦争に加担してしまう」という状況をこそ取り上げるべきだと思う。本意ならずその状況に追い込まれてしまい、逃げようがないが故に耐えるしかなかったことを、賞賛したところで世界は何も進歩しない。その方の名誉は保たれるが、それが何を引き起こすかを考えずに伝承する人間は、戦争に加担しているのと同じことをしている。だからこそ、『風立ちぬ』のように、「その個人の純粋な探求が、本意ならず戦争に加担してしまう」という状況をこそ取り上げるべきなのだ。

…というようなことを考えていると必ず頭に流れるのが『Q&A』。

悪気無くても罪は生まれますか?
(『Q&A』/B'z


で、なんで『ペテロの葬列』について書いているのにこんなことを長々と書いているかというと、『ペテロの葬列』のモチーフで僕にとって最重要だったのがここだから:

p388「詐欺まがいのことをやる会社に勤めてて、知ってて加担してるなら、そこの社員だって詐欺師みたいなものです」

p545「自分たちも加害者になってたんだって自覚しない人たちが残ってしまう。それじゃ何も変わらないのよ」

この二文は痛烈だと思う。己が所属する会社という集合体が何か不正を働いていて、知ってて加担していたら、その社員も同罪なのか。敢えて明記するとすれば東京電力の社員の方々はどうなるのか。そして、知っているとして、だからといってそう簡単に会社を辞められる訳ではないということも、勤め人であれば誰でも理解できると思う。それなのに、自分は今たまたまその境遇ではなくて、そういう境遇の会社を見て、一方的に責め立てることができるのか。逆に、だからといって責め立てないというのは正しいのか。

更に難問なのは後者で、ここで言っているのはネズミ講の話なのだけれど、それを離れたとしても、自分たちも加害者だと気づいていない人というのは自分も含めて現代社会には蔓延していると思う。そういう状況をどうにかして白日の元に晒して変えたいと切羽詰まったという事件が本著のメインストーリー。自分たちは正義を通そうとしていると信じきっていて、実は「加害者」になっているという自覚のない、もう少し言うと自分に対するそういう批判の目線を持たない人びとが増えつつある。正に、「悪気無くても罪は生まれますか」。最初に書いた、特攻礼賛の人びとのように。そういう人たちが増えていった結果どういう社会になっていくのか、を考えさせられる小説。このモチーフは現代において超重要だと思います。
ペテロの葬列
宮部 みゆき

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