仮説の終焉 - 『ビッグデータの正体』/ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ、斎藤栄一郎

因果関係よりも相関関係。「ナントカ系」とか「ナントカ女子」とか、すぐ十把一絡げにされたがる日本人にとってはありがたいシステムでは。
ビッグデータの要諦として私が本著から得たのは、「データをサマリしない。n=全部」と、「因果関係を解き明かす必要はない。相関関係がわかれば十分」の二つ。「n=全部」はこれまで「編集」を考える中で念頭においてきたことなので取りあえず脇に置くとして、「相関関係がわかればよい」と言う説明は、ビッグデータに関する視点をクリアにしてくれた。ビッグデータは、発想のパラダイムシフトを促している。ただ、相関関係が判ればいいというのはどうにも釈然としない感覚が残るのも事実。しかし、相関関係というのはある意味で「傾向」分析なのだとしたら、似たような趣味や性向で一括りにされたがる日本人にとって、ビッグデータは相性がいいのかもしれない。

因果関係の追求を放棄するというのは、これまでの因果関係の手法を放棄するということで、「仮説思考」を否定するのに近いと思う。「n=一部」の時代は、集まったデータから某かの知見を得るためには、予め得られる結果の「予想」を立て、その予想とのズレを見てまた予想を立て直し分析する、というのが常套だと思うけど、ビッグデータは仮説を必要としない。入手された「n=全部」を隅々見回して、相関関係を洗い出す。つまり、人間の頭で事前に結果を予想するというプロセスが不要になる。これは、なんでもかんでも理由を問い但し責任者を突き止めなければ気が済まない現代(人)に対する、時代が生んだアンチテーゼという気もするし、予想を捨てるというのは思考の退行のようにも思う。予想の代わりにデータ分析力がインテリジェンスになるのだと言われたら、頷きつつも深く考え込んでしまう。

 
4062180618 ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 斎藤 栄一郎
講談社 2013-05-21

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