『カジュアル・ベイカンシー 突然の空席』/J・K・ローリング

現代の現実社会が舞台でありながら、『ハリー・ポッター』よりも娯楽小説な読後感でした。

と言いながら、実は『ハリー・ポッター』シリーズは、本で読んだことないんです

ストーリーとは別に(やはりストーリーテリングが巧みなので、筋を見失うことなく読み続け読み進められますが、起伏が激しい訳ではなく、ラストも静かに幕を引くような印象があります)、非常に興味深かったのが、各章の始めに書かれている、『地方自治体・自治組織の運営』という書籍?からの引用。

Ⅱ:
p355「自発的な団体の弱点 そのような団体の主たる弱点は、設立時の困難に加えて分裂の可能性が少なくないことである」
p379「貧困の救済 生活困窮者の利益になる贈与は・・・慈善行為と解釈される。また生活困窮者への贈与は、たとえ付随的に富裕者の利益になる場合においても、慈善行為と解釈される」 

チャールズ・アーノルド・ベイカーで検索しても『地方自治体・自治組織の運営』で検索してもなーんも出て来ないので、学の無い僕にはこれが実在なのかフィクションなのか区別がつかないんですけど、それにしてもよく書かれた文章だと思います。

「自発的な団体の弱点は、分裂の可能性が少なくないことである」これは、地方議会等を思い描いて堅苦しく考えなくても、身近で作ったサークルとかグループとか、作らなくとも自然発生した集まりなんかでも容易に思い当たる。これを、どうやれば維持していけるか、と考える方向もあれば、以前読んだ『来たるべき蜂起』のように、コミューンは必ず分裂されてしかるべきものだ、と、コミューンの本質を大事にする方向もあれば、僕のように端から単独に重きを置くという方向もある。どれかが何かから逃げている、という訳ではないと思う。

「生活困窮者への贈与は、たとえ付随的に富裕者の利益になる場合においても、慈善行為と解釈される」 これなんかは流石によく考え抜かれているなあとほとほと感心しました。日本だと、行為の結果がどうあれ、それを行うに至った考え方がヨコシマなら許されないとか、「付随的に利益」があるなら「汚い」とか言い募る風景がすぐに思い浮かぶ。全方位的に、抜け穴なく評価する姿勢はとても大事なことだけど、全方位的に評価した結果、総じて「どう」なのか、ということを判断する意識が、日本の民主主義には欠けていると思う。

4062180227 カジュアル・ベイカンシー 突然の空席 1
J.K.ローリング
講談社  2012-12-01

by G-Tools
4062180235 カジュアル・ベイカンシー 突然の空席 2
J.K.ローリング
講談社  2012-12-01

by G-Tools