『Sunny』/松本大洋

僕は本当に何一つ不自由なく両親に育ててもらった。その両親は非常に貧しく、文化住宅暮らしから生活を始め、父親は僕が小学二年の頃重度の慢性病を患い死の淵を彷徨いつつ家族のために必死に働き続けてくれ、僕を何一つ不自由なく育ててくれた。高度経済成長に伴い学歴社会化する中、十分な学歴を持たなかった父はその悔しさもあって僕に「学」という名をつけ、その親の期待に沿うレベルではなかったけれどもともあれ大学も無事卒業することができた。そして今こうやって社会人として生活を営むことができている。

もちろん、子どもの頃からそんなに聞き分けがよかった訳がない。でも今は違う。面と向かえばおもしろくないことも多く、憎まれ口を叩いたり無愛想になったり未だにするけれど、両親には本当に感謝している。僕は苦労した両親のことも含めて、自分の出自を隠すつもりは全くない。そして、すべてひっくるめて感謝するようになったのは、そんなに古いことではないがそんなに新しいことでもなくなった。

だから、「星の子学園」という施設で過ごす子どもたちを描いた『Sunny』について、コミックナタリーで松本大洋が語っていることが、在り来たりな言葉に見えて本当によくわかる。

大洋 施設を出て30年ぐらい経つし、もういいだろって感じですかね。あと、いま43歳っていうのも結構重要で。自分の場合、50歳くらいになってから始めちゃうと、ノスタルジックな話を描いちゃう気がして。だから今なら描けるというより、今しか描けないかな、と。

自分の過去を今なら振り返れる、そう思えてる人が読むのが、この漫画をいちばん味わえると思います。そういう意味で、この漫画は分かる人にしか分からない漫画だと思います。だからこそ、お勧めです。

4091885578 Sunny 第1集 (IKKI COMIX)
松本 大洋
小学館 2011-08-30

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