エストニアのデジタル行政と「ゼロ・スタート」

数年前エストニアを訪れた際、ヘルシンキからタリンに向かう船上でもフリーのwi-fiが使え、タリンの旧市街でもフリーのwi-fiが使え、「IT先進国と聞いていたけど凄いなあ」と感動した記憶があります。

今思えばフリーのwi-fiが整備されているくらいでIT先進国と思うのが浅かったなあと。『WIRED』の「e-Estonia」を読んでつくづくそう思った。エストニアでは国民の95%がオンラインの税金申告システムを使っている。2005年にはネット選挙が施行されている。わずか18分でネットで会社登記ができる。日本人で、どれだけ「ネットをもっと有効活用すべきだ」と言っている人でも「会社登記が18分でできる」と聞くと「そんなに簡単に会社が作れてしまっては信用やセキュリティに問題が出てくるのではないのか」と後ろ向きなことを言うのがほとんどじゃないかなと思う。

もちろんエストニアの電子登記の仕組みは本人確認や認証などの技術的課題をクリアして運用に乗せている訳だけど、こういった「デジタル行政」の実現を日本で阻んでいるのは、先に書いたような極端にリスクを嫌う保守的なスタンスだけでなく、「革命的」な施策を実行できる環境にあったかどうかが結構重要なのかなと思いました。エストニアは1991年8月、ソ連から独立。銀行や通信といった基本的なインフラが何もない状態から国家を伸長していくためには、ITを徹底的に活用しなければならないというコンセンサスが取れていたということだと思います。

既得権益や過去の遺産に捉われず、「せーの」で一から作り上げていける状態は自ら作り出せる状態じゃないのでどうしようもないことだけど、日本もそういう状態だったことはある。第二次大戦の終戦直後から。概ね世間では、そのとき焼け野原ですべてを失った日本国民は、その後一致団結して国を復興し、世界有数の経済大国に発展を遂げた。けれど、同様に国家的危機と思われた東北大震災とそれが引き起こした福島原発事故後の現在の状態は、国民が一致団結するような状態ではないということらしくて悲しくなる。電力の問題も復興の問題も、被災地と非被災地で、東と西で、分離してしまっているように思える。

B00EI7KTN4 WIRED VOL.9 (GQ JAPAN.2013年10月号増刊)
コンデナスト・ジャパン 2013-09-10

by G-Tools