「話せばわかる」「問答無用」2014年版

 選挙権を持ってからこの方国政選挙では、僕はなるべく「日本の将来にとってどういう政策が、よりよい政策か」ということを、割と真面目に考えて投票していました。もちろん、僕の知識と知能では考えられる内容には限界がありますし、その時々の選択が正解だったのかどうかはまだわからないほうが多いです。これは感覚ですが、僕が属する団塊ジュニア世代で投票する人の多くは、割とナイーブに真面目に、「日本の将来」にとっての是非を考えて投票する人が多いと思います。

 これは、「自分の立場だけではなく、いろんな立場を理解しようとする」スタンスを強いられます。「日本の将来」を考えるのであればそれはそうです。自分より10歳も20歳もそれ以上も若い方々が生きる時代のことも自分が考えられる範囲で考え、答えを出さないといけないからです。

 だから、「痛みを伴う」と言われてもそれが必要なら、というスタンスを取ったり、「消費税増税が必要」という意見にも耳を傾けたりしてきたのです。

 でも、今の安倍首相の動きは、「相手の意見なんて聞くだけ無駄だ。自分たちの主張を声高に叫ぶのが一人前の国家だ」と言っているようです。特定秘密保護法案しかり、靖国神社参拝しかり。靖国参拝に関して、歴史認識の誤謬の可能性を持って靖国参拝を正当化するような言い方をしている人もいるようですが、誤謬の可能性を認めるなら、「歴史」に真実はない、「歴史」というのはあくまでそれぞれの現在の立場から見たストーリーなのだから、それを踏まえた上で自分たちの振る舞いが相手にどう捉えられるのか、という視点がなければ、自分たちの主張を通すことはできない、とわかるはずなのに。

 安倍首相の言動は、相互理解など無駄と言わんばかりに感じます。確かに僕たちもこの20年間、自分たちにとっての損得だけではなく、国全体の損得と将来を考えてきても国の借金は一向に減りませんし、もうこれ以上、違う立場のことを考えても仕方がないと思うようなところまできた感があります。どうせ国が改善する気がないのなら、消費税をこれ以上上げてもらうのは困る。法人税を引き下げてもらうのも困る、法人税を下げたところで給料が上がるかどうかも分からないしその財源に消費税アップをあてこまれても困るので反対、高齢者の医療費負担は即刻現役世代と同じに、年金のマクロ経済スライドも即時発行。結局、それぞれの立場が自分の立場が得をすることをそれぞれわーわー騒ぎあうのが最もよい結論に進める方法なのだよと、安倍首相は態度で示しているのだと思います。

 問答無用。そう、5・15事件の「問答無用」。「話せばわかる」と言った首相は「問答無用」と殺され、その後の展開で、岸信介は満州国の中枢部に君臨。安倍首相は岸の外孫。その安倍首相が国民に態度で示しているスタンスが「相手の意見なんて聞くだけ無駄」。

(東洋経済12/28-1/4号「アジアで対立する3人の指導者の因縁」)

もし、国民に範を示すのは首相ではなく天皇の役割というのなら、昭和天皇(およびその後の今上天皇も)はA級戦犯(岸信介はA級戦犯被疑で逮捕・不起訴、公職追放)が合祀された1978年以降、一度も靖国神社を参拝していない。