『さよならインターネット』/竹邑光裕

若林さんは「さよなら」好きなのか?

そんなこと思いながら『さよなら未来』のときの自分の読書メモ見返したら、『さよなら未来』を読むきっかけも五味さんだった。この『さよならインターネット』も五味さん。五味さんもさよなら好きなのか??

それはともかく、ポスト構造主義の悪用で歪んでき続けた状況に「さよなら」しないといけない、という問題意識は通底しているように見える。「何かよさげなもの」と決別するのは今までは何がどうあれ後退で、確実に敗退する道と思われたけれど、この2冊を合わせて考えると、このままではまずい、という意識が強くなる。まさにゆでガエル。

『つみびと』/山田詠美

単純に「虐待は連鎖する」と言って、じゃあそれを誰がどう止めればいいんだ、ということを考えさせられる稀有な小説だったと思う。著者がインタビュー記事で語っている通り、事実を元にしたフィクションとして、変な価値観や説教を持ち込むことなく、物語を物語として書き切られているけれど、それだからこそ、「じゃあそれを誰がどう止めればいいんだ」という考えに至らされる。子どもがどうしようもないところに追い込まれたとき、そこからどうやって助けるのか。小説は親子2代に渡る不幸な生い立ちが描かれるけれど、そこから逃げても立ち向かおうといてもうまく行かなかったという結末を読んで、「じゃあそれを誰がどう止めればいいんだ」と思わない「男」がいるのだろうか。

印象的だったのは、2児の母が世話になっていた風俗店の支配人である男が、2時の母の母に言った台詞:
「あの子たちが、いったい、どういう世界に身を置いていたか御存じないんですか?あなた、無知過ぎるよ。いいですか?彼女たちの過去も未来も、彼女たちだけのものなんです。他の人間が関われるのは、その時に現在と呼ぶことの出来る、ほんの一瞬だけなんだ」

20190101 Kindle vs honto (vs 紙の書籍)

きっかけは、『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』。

日本語版が出るのを知らずに、(読めもしないのに)英語版を買おうと考え、そうすると選択肢は自ずとKindleということになり久し振りにKindleの出番となったのだけど、まずやっぱりhontoアプリよりKindleアプリのほうが読書体験はスムーズだと思う。いちばんはKindleで購入した書籍で目次が中途半端なものがない。hontoアプリは、目次が「章」レベルしかないものがあったりする。これでは立ち戻ってとある記載を読みたいと思ったとき、スワイプスワイプして送っていくか、ブックマークを確実にやるしかない。また、マーカーの機能なんかも、hontoは使える書籍があったり、使えない書籍があったりする。だけどKindleは確実に使える。

そして日本語版も発売されるとわかって日本語版をKindleで買って気づいたもう一つの難点、それは・・・

「スクリーンサイズ」。

あまり認めたくはないものの、40歳も中間地点を過ぎて50歳に近づいてきて、視力が衰えてきているのは否めなくて、スマートフォンで読書をするというのはフィジカルに結構ツラい状況になっていると最近急に気づいた。いろんな理由は思いついていたのだけど、電子書籍での読書(特にいわゆるビジネス書系)が捗らない一番の原因はこれだと思う。そしてそれに関連して、スマートフォンで読むとすべての書籍の「外観」が一緒なので、なんというか読書がのっぺりとした行為に脳の中で記憶されているような感覚がある。

それを考えるとハードウェアのKindleはよくできた端末だったなあと改めて感じる。僕が電子書籍に求めていたものは可搬性と検索性で、それはハードウェアは専用でなくても、むしろ専用ではないほうが望ましくて、スマートフォンでもPCでも読めるならそれに越したことはないという結論だったんだけど、事ここに及んで読書の質に影響を与えるという話になると、専用ハードウェアを持つKindleでこれからは購入しようかなあ、という気分になってくる。

ただ、Kindleでも「のっぺりとした行為」には変わらないので、書籍によっては紙形態で購入することも必要だと特に最近感じる。実際、『さよなら未来』は紙の書籍で購入した。同じ内容のテキストをデータと紙で二重持ちして何か意味があるのか、という感じだけど、必ず意味があると最近確信し出した。テキストがどのようなメディア上にあるのかは、利便性は印象に影響を与えて結果読書体験にも違いを生み出す。それならばデータと紙の両方で読むほうが、テキストの読解という点では望ましいはずだ。だから、「データ+紙購入で価格は1.1倍分」みたいな値付けで売るストアが出てきたら、確実にそちらに乗り換えると思う。

そんなことを考えながら導いた今年のテーマは『アクティブ・ダブル・スタンダード』。矛盾があるなら消去法じゃなくて両方追いかけてみる。


街の本屋で本を買う - 2018/01/26 amazon『オペレーションZ』/真山仁

なんで「街の本屋で本を買う」なのにamazonかというと、街の本屋どこも置いてなかったから。

最初、amazonで検索したら「現在在庫切れ」に続いて発送予定が4,5日後という珍しいシチュエーションで、それなら近所の本屋で買おう、この話題の書がない訳ないだろうと回ってみたのだけど、ない!最寄りの啓林堂書店生駒店、その次の啓林堂書店学園前店、そして西大寺のジュンク堂書店奈良店、どこもない。そういう訳で、街の本屋の状況がよくわかる事例だなと思って書いてみた。

今回、三件回って改めて思ったのは、本屋にある小説新刊の書棚の少なさ狭さだった。ちょっと前までは本屋と言えば小説新刊の棚が圧倒的だった。今ではほんとに見る影もない。三件本屋を歩き回って棚の配分についていろいろ思うことがあったのだけどすっかり忘れてしまった。

B078JGRM6V オペレーションZ
真山仁
新潮社 2017-10-20

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『データサイエンティストの秘密ノート 35の失敗事例と克服法』/高橋威知郎 白石卓也 清水景絵

データサイエンティスト職だけでなく、あらゆる提案型業務に携わる人に役に立つと思います!

品川インターシティのくまざわ書店で見かけ、買うかどうか迷ってとりあえず図書館で借りてみたのですがこれは買おうと思いました。最前線のデータサイエンティストの方が実名で書かれているので非常にリアルでわかりやすいというのもあるし、「失敗を共有する」という、失敗を重視するスタンスにとても共鳴します。

例えば、「分析目的から外れた興味本位な分析をしてしまう」という事例で、克服法のところで「「アクション」「分析結果」「つながり」の3つを明らかにする」ということを、例を用いてわかりやすく説明されています。分析目的を、「アクション」と「分析結果」で説明するところまでは大体できていても、その「つながり」を明確にするというのは結構できていない。このフレームワークはデータサイエンスだけではなくて、提案型業務では大切な基本だなと再認識しました。

そもそも、この本の構成が「準備フェーズ」「分析フェーズ」「報告フェーズ」の3フェーズ構成になっていて、この3フェーズは見事に提案型業務の業務フェーズに合致していますし、それぞれのフェーズで起こしがちな失敗も自分のこととしてよくわかります。報告フェーズでの失敗事例と克服法は本当にデータサイエンスを離れて直接的に役に立ちます。オススメです。

4797389621 データサイエンティストの秘密ノート 35の失敗事例と克服法
高橋 威知郎 白石 卓也 清水 景絵
SBクリエイティブ 2016-11-12

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『住友銀行秘史』/國重 惇史 『テロルの真犯人』/加藤 紘一 『YKK秘録』/山崎 拓

2016年は非常におもしろい日本のノンフィクションに多数出会った1年でした。中でも弩級だったのがこの3冊:
『テロルの真犯人』は10年前の出版だけど、知らない事実も数多くあり、読めてよかったと思う。この時点で日本会議に言及していることが最大の驚き。
『住友銀行秘史』は入院中に一気に読んだ。イトマン事件って目にするたびに本読み返したりウェブ検索して記事読んだりするんだけど、よく分からない事件だなあ…とずっと思ってたんだけど、本著はイトマン事件を理解するのに(当事者の記載ということもあり)ずいぶん役に立つと思う。
『YKK秘録』は『テロルの真犯人』より情報量が多く(『テロルの真犯人』は自身の思想信条を表明している著作なのに対して『YKK秘録』はクロニクルなので当たり前なんだけど)、90年代~00年代の自民党政治の変遷を概観出来て面白い。中には、世論的には批判がありそうな行動も、さも政治家的には普通ですよと言わんばかりにさらっと書いている部分もあって、政治の常識(それは世間の常識と近似なのかもしれないけど)を知るという意味では非常に有用。
 
4062201305 住友銀行秘史
國重 惇史
講談社 2016-10-06

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4062137380 テロルの真犯人
加藤 紘一
講談社 2006-12-19

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4062202123 YKK秘録
山崎 拓
講談社 2016-07-20

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『わたしを離さないで』/カズオ・イシグロ

読み終えて一番思っていることは、「我々はいずれ必ず死ぬのだ」、ということだった。この物語に登場するキャシー、トミー、ルースたちは特殊な事情で、特殊な生を受け、特殊な使命を負わされ果たしてそのとき死んでいくことが予め決定されていて予見もされていて、それが非常に辛く残酷なことだと感じるが、「死ぬ」ということ自体は彼らだけに特殊なことではなく、我々は皆、いずれ死ぬ。だから、死ぬこと自体はそれほど絶望しなければならないことではないし、しかしながら重大なものとして常に日々意識して生きていかなければいけないと思わされた。それは特にこの一文にたどり着いたときだ。

それは、時間切れ、ということです。やりたいことはいずれできると思ってきましたが、それは間違いで、すぐにも行動を起こさないと、機会は永遠に失われるかもしれない、ということです。

ひとつだけ、彼らは100%子供をつくることができない身で生まれている。そして、人を愛するという心に強く引き付けられているにも関わらず、相手は誰でも構わないからとにかくセックスがしたいという瞬間があるという描写がある。彼らがとにかく「生」を全うしたい、燃焼したい、という、生命体としての本能を無意識に全開にするところに触れるたび、逆説的に、自分も残り時間を無駄にしないように、時間切れにならないように生きていかなければならない、と繰り返し思った。

4151200517 わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロ 土屋政雄
早川書房 2008-08-22

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街の本屋で本を買う - 2016/03/16 大垣書店イオンモールKYOTO店『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』/浅羽通明

たったこれだけのことをメモするのが5日後になる、それくらい忙しい毎日を過ごしています。

仕事と仕事の合間で移動もできない時間ができた京都駅界隈で、書店を覗こうと少し離れたイオンモールの大垣書店に。フロアを歩いていると紀伊国屋書店出版部の60周年フェア「本は、原点」の棚が目に留まり、ラインアップを眺めていたらふとちょっと前何かの書評で見て気になっていた本著を思い出して購入。

本著を思い出すきっかけになった、「本は、原点」フェアに陳列されていた書籍もものすごく気になるものだったんだけど残念ながらメモを忘れていて、「本は、原点」で検索してもラインアップがわかるサイトもなかった。ので、近々また大垣書店イオンモール京都店に行かないと。

448006883X 「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか (ちくま新書)
浅羽 通明
筑摩書房 2016-02-08

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『超・反知性主義入門』/小田嶋隆

超弩級におもしろい。どこをとってもおもしろい。国政選挙のある今年、読んでおいて絶対に損ないです。
日経ビジネスonlineに連載されている『ア・ピース・オブ・警句』の2013/11/1~2015/4/10分と、著者の小学校~高校の同級生である森本あんり国際基督教大学副学長との対談の収録本。『ア・ピース・オブ・警句』は毎回とんでもなくおもしろくて、こんなおもしろいコラム、世の中で読んでいない人いるのかと思うくらいおもしろい。なのでそれを取りまとめた本著も当然のごとくおもしろいです。

本著を読んで一貫して、かつ改めて思うのは、「もし自分がその立場だったらどう思うのか?同じことを言うのか?」という姿勢というのが、いつから日本ではこんなに希薄になってしまったのだろう?ということ。いつから、そのときの自分の置かれた立ち位置で物を言って構わない、立場が変わってしまえばそのときの立場に合わせて、かつてと真逆のことを言っても構わない、というのが当然という風潮になってしまったのだろう?日本は美しい国らしい。だから日本に生まれた僕らは幸せだ。だけど、日本に生まれられなかった人たちはもちろんそれこそゴマンといる。そういう人たちに向かって、「オマエは日本に生まれられなかったら不幸だね」と、どうして言えるのか。そして、アメリカか中国かイギリスか韓国かフランスかわからないけれど、他国の人から「オマエはウチの国じゃなくって、日本なんかに生まれて不幸だね」と言われたら、それに対してどう反論するのだろう。なんでこの双方向性が判らないのだろう。この双方向性があるのに、日本という国は成り立ちからして特別なのだ、と心から思っている会議の方々はどういうことなんだろう。

p148「人権はフルスペックで当たり前」で、世耕弘成自民党参議院議員が「フルスペックの人権」という言葉を、生活保護給付に関する文脈で使用した事件(だろうこれは)について触れていて、要約すると、生産に寄与するところの少ない障害者や、生活保護給付を受ける者は、「フルスペックの人権を認められるべきではない」というもの。こういう人々は、いったん自分が何かの事故や大病で不自由になったとき、自分のフルスペックの人権の一部を申し訳ございません社会にご迷惑をおかけしましてと差し出すのだろうか?これまでの見聞経験上、おそらくそうではない。立場が変わると、突然意見を変えるのだ。「障害者にもフルスペックの人権を」。

確かに、相手のことを考えて行動することで、痛い目に遭うことの多い時代を生きてきたと思う、我々は。けれどそれはたいていにおいて政治が相手の出来事だった。増税や年金負担増や健康保険負担増がその最たるものだ。だから、総論ではわかるけれども、自分の都合を押し通す、というのが日本国民のコンセンサスになっていった気がする、特にこの失われた20年の間に。そのトップランナーの高齢者は、低所得年金年金受給者に3万円配布するという政策を、待機児童問題が一向に解消せずそこに予算が付かず未来が失われると言われている中でのうのうとおめおめとありがたく頂戴しようとする。そういう高齢者を敬えと言っている社会が美しくなる道理はない。

今の自分がなぜ今の自分の状態でいられるのか、それを考えられない人間は安全地帯から人を操作しようとする。p232「彼らは、撤退しないからこそ、エリートになった人々でもある」。アメリカの大統領選は、政治エリートに対する不信感が飽和点に達しつつあることが、トランプのような支離滅裂な候補を支持率トップに押し上げると聞いたが、日本ではエリートによって維持されたままの格差に苦しむ層がなぜかエリートを支持するという現象が起こっているように見える。日本は、自分ではどうしようもない規模の出来事に対しては、目先を変えてその憂さを晴らす方向に走ってしまうように見える。
 
4822279286 超・反知性主義入門
小田嶋 隆
日経BP社 2015-09-15

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『物を作って生きるには ―23人のMaker Proが語る仕事と生活』/編=John Baichtal・訳=野中モモ

つながりっぱなしの日常を生きる』の訳者が手掛けられた新刊、とてもエキサイティングでした!

いつもアクセスの全然ないこのブログが桁違いのアクセスログを残したことがあって、Google Analyticsを追いかけてみたら『つながりっぱなしの日常を生きる』のエントリにアクセスが多数あったことがわかり、更に解析してみたら、なんと!訳者の野中モモ氏がご自身のツイッターで取り上げてくださってそこから多数のアクセスに繋がってたことが分かりました。それは『暇と退屈の倫理学』以来の出来事で、ウェブってつくづく面白いなあと思う出来事でした。それから数か月後、Raspberry Piを買って、何を作ろうか何が作れるか参考にしようとジュンク堂書店難波店に行ってメイカー系の書籍集まる棚を何気に眺めてたら、O'REILLYの新刊案内冊子に「野中モモ」の文字が!そのときは確か「11月下旬発売予定」と書かれていた気がするんだけど、来る日も来る日もGoogleで検索したりamazonで検索したりしても一向に現れず、いつ出るのかなあと思ってたらamazonからrecommendationが届き、「来た!」と速攻注文したのでした。マシンラーニング偉大。

もう2,3年前のことになるんでしょうか、3Dプリンタが普及価格帯に入りだし、誰でも個人でモノづくりできる時代が到来する!とかなんとか「ほらほらまた出たよそのパターン」と、IT業界に身を置く立場としては飽き飽きしている言説が流布され”メイカー”という言葉が持てはやされて、それから数年、案の定誰でもモノづくりするような状況にはなってないじゃないか、メイカーとか例によってバズワードじゃん、と白けてたんですが、本著を読むと「メイカー」というムーブメントは「誰でもモノづくりできる」というのが本質じゃなく、アメリカでは確かに今もメイカームーブメントが進行中であることがとてもよくわかります。その本質は「誰でも」という粗いものではなくて、「モノづくりをしたいと思った個人が、個人でその事業を立ち上げるためのハードルが、技術革新によって著しく下がった」ということです。サプライチェーンの話なんかそれが特によくわかります。気楽に始められる、ということではなくて、真剣に勝負しようと思っている個人が、個人のままで戦える、それがメイカームーブメントの本質ということじゃないかなあと思いました。

本著の出色なのは、日本のメイカーのインタビューも6件収められていることです。DMM.makeの動静なんかも読み取ることができて、日本のメイカームーブメントの現状と先駆者の考えを読めるのは素晴らしいことと思います。メイカームーブメントに興味はなくても、働き方生き方を考えるのにたくさんの刺激と知識を与えてくれる良書だと思います。オススメです。

487311747X 物を作って生きるには ―23人のMaker Proが語る仕事と生活 (Make:Japan Books)
John Baichtal
オライリージャパン 2015-12-26

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