今までで一番、飛びぬけてまったりした印象でした。成熟した"IN THE LIFE"という感じ。あまりに崇高な思想を歌われたりはしないけれど、だから生活に密着して聴けるけど、成熟感は抜かせない。
全体を通すと、"EPIC DAY"というタイトルの意味をよく理解できます。やっぱり大事なのは、"EPIC DAYなんて来るのか来ないのか分からないけれど、来るように日々行動するということ”という了解の仕方。B'zは決して、単純に"いつかEPIC DAYが来ます”とだけ、言ってる訳ではない。"MAGIC"で”ひたすら信じて待て”と歌ったけれどあれも決して単純に報われることを保障してる訳じゃない。"EPIC DAY"に戻って、このアルバムは、ここまで来てしまったという現実とか(”Exit To The Sun"の「微笑んでくれる人がひとりいるなら もうそれでいいじゃないかってうなずかなきゃいけないね」)、やり直せない現実とか(”Classmate")、そういう「年をとった」現実を正面から受け止めて、そこに安住せずもっともっと先へ生きていこう、というふうに受け取ります。
全体を通すとそういう風に受け取れるながらも、魂を鷲掴みにされ一度聴いてからずっと頭の中で考えが四方八方に伸びて収まらず、どうしてもそれについて書きたくなってしまうのが”Black Coffee"。"Classmate"とか、内容的には哀しいテーマであっても曲の印象も歌われていることもきつい伝わり方はしてこない中、まるで鈍器と鋭利な刃物の両方で感情に大ダメージを与えてくるような曲。
明日になったら何か変わるでしょうか
くだらない誤解を笑うような
氷がちょっとずつ解けるような
そんな夢 甘い夢
ノミホソウ
「ノミホソウ」。そんなこと有り得ないよ、と諦めさせられる。だいたい世の中では意見を交わせば通じ合える、という理想を掲げる中で、「そんなのただの楽観的希望的観測でしかない」と突き放す「ノミホソウ」。
お互いいろんなものを
見せ合ったけど
まるごと愛せる才能がまだ足りない
時間をかけ相互理解が深まると、もちろん受け入れられない部分や、経験して記憶に残ってしまう否定的な部分が積み重なる。だから時間をかければかけるほど、そういった受け入れられない部分を受け入れる力が必要になるけれど、それが「まだ足りない」と、自分を責める方向に向かうしかないネガティブスパイラル。
誰のことも恨まないで憎まないで
優しい思い出だけ集め
このままさよならしてしまおう
そんな思い 苦い思い
ノミホソウ
そして出口を無くしてしまうこの曲最大の大転換。日本では(世界でもそうなのかも知れないけれど)、耐えきれないことがあったとき、それを自分の外部のせいにせず、不平不満も言わず、感謝すべきことに感謝だけをして、潔く身を引く的なスタンスが美徳とされ、それをわかっていてその選択肢を選ぶことが時に「楽」なこともあって、そうやって楽なほうに逃げてしまう自分を「苦い思い」で見つめてその考えすら「ノミホソウ」と言われてしまう。どん詰まりの状況で、ただ黙ってそこから立ち去ることさえ許されない。
正直な思いを残らずぶつけあい
悔いが残るほど傷つけあい
それでも少し前に進む
そんな運命 シブい運命
まだ見ぬ旅路があるのなら
しばらく歩いてみるのもいい
出発の前にもう一杯だけ
黒い珈琲 苦い珈琲
ノミホソウ
たった一か所だけ出てくる救い、それが「それでも少し前に進む」。そしてそれを「そんな運命 シブい運命」と呼び習わす。先のフレーズで「このままさよならしてしま」うことを「ノミホソウ」と言っているので、意見が徹底的に食い違う相手と、それでも離れることはしないということは前提になっていると思う。離れることはできないからズタズタになるほどやりあって、それでやっとなんとか「少し前に進む」。そんな状況を、「そんな運命 シブい運命」と言わずに何と言えよう。それでも少し前に進んでその先に「また見ぬ旅路がある」と思えるから「しばらく歩いてみる」。「しばらく」と言い、「してみるのもいい」と言っているけれど、これはもうそうやって生きていくしかない、それが人生という運命なんだと言っているように聞こえる。
自分にとっては”有頂天”は久し振りに投げ出されるだけの救いのない歌詞だなあと思ってて、この"Black Coffee"も相当にどん詰まり感のある苦く重く苦しい歌詞だけど、"EPIC DAYなんて来るのかどうか分からないけれど”という境地を維持するためには、これくらい徹底的に自分を追い込む覚悟がないといけないんだなと深く深く突き刺さった。例によって単純な男女間のことを歌っている曲ではないし、自分が自分の生活に照らし合わせる際も自分の生活というより自分のスタンスすべてに染み渡らせようと考える内容だった。