『沖で待つ』���絲山秋子

沖で待つ (文春文庫)
絲山 秋子
文藝春秋  2009-02

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第134回芥川賞受賞作『沖で待つ』他���編収録。

 『沖で待つ』は、小説を読む意義を再び僕に教えて与えてくれた小説だった。何のために小説を読むのか���小説から何を得るのか���そして、なぜその小説を読んだと表明するのか���その小説から何を得たと、人に伝えるのか���そういった悩みに一本筋を通してくれた。

 小説を読むということは、自分をひけらかすことではない。「こういうものがわかるのだ」と、自分の偉さをひけらかすことでは全くない。そんなエゴやプライドに塗れたコミュニケーションのために利用されるものじゃない。そう思ってきたけど、『沖で待つ』は、まあそんなことがあってもいいじゃないか、となぜか思わされたのだ。これは不思議な感覚だった。

 疲れた気分をぶちまけるような読み方があっても構わないし、そんな自分を戒めるような読み方があっても構わない。別に、明日からの日々の自分に反映するように読まなくったって構わない。自意識過剰はみっともないけれど、まあそれでも構わない。そんな感触が残った。

『顧客はサービスを買っている』���北城恪太郎  諏訪良武

顧客はサービスを買っている―顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント
北城 恪太郎
ダイヤモンド社  2009-01-17

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 北城恪太郎氏監修ということで期待して読んだが、概ね既知の内容だった。

  • サービスサイエンスの視点。モデル化。
  • ”事前期待”の可視化・顕在化と、マネジメント
  • マネジメントとは、「管理」ではない。

 このタイプの本を読むと、直に「自分はどう行動すればよいか���」という視点になる。そして、会社全体のことを考え、会社全体を改善するためにまず自分が働きかけられる部分はどこか、という発想になる。この思索には「マネジメント層」「フィールド」という���つの役割しかない。しかし、膨大なフィールド情報を読み込めるだけのスキルやシステムを持っているマネジメント層は稀で、フィルタリングするための役割が必要なはずである。それがない企業に勤めている間は、「自分はどう行動すればよいか���」と自分のフィールドの役割にあった行動を考えるのは無駄で、一足飛びに「マネジメント層」視点でモノを言うほうがよいのではないかと思う。

 オムロンフィールドエンジニアリング社の情報システムやコールセンター見学の話が、「サービスの見える化」として紹介されている。こういうのを見聞きして、自社のコールセンター見学ツアーなどを企画しているのだなあ、と初めて謎が解けた思いだった。もう何年も前から、「いくらシステムが素晴らしくても、それがお客様に価値を提供できているかどうかは別問題」という問題意識が、少なくとも僕の周りにはあった。それなのに、よく嬉々としてコールセンター見学ツアーなどやるもんだと思っていたが、こういう「古い成功事例」を追いかけていたのだ。オムロンフィールドエンジニアリング社のコールセンター見学が説得力を持ち���今でも���成功するのは、①先駆者であるから②当時はシステム自体が他にないものだったから に尽きると思う。今じゃどこにでもあるような二番煎じのシステムを見せて、感動するようなお客様はいないだろうし、そんなものを見てサービスが素晴らしいと納得されるお客様なら、実際に提供したあとにトラブルが起きるだろう。「納得」が大事なのだ。

���ⅲ 「オムロンフィールドエンジニアリングのサービス・プロセスの「見える化」」
��������� 「お客様にとっては、お店の売上げ効率を上げることには何の関心もない」
������������ 「顧客満足の定義」「顧客満足は、事前期待の達成度を評価尺度としたサービスの総合品質」
������������ 「当社のアフターサービスが他社と比べてどういうレベルにあるかを関係者が知らなかったことこそが、一番の問題だと気づいた」
������������ 「トップ企業がこのようなサービスを提供しはじめると、ユーザーはこのレベルのサービスを当たり前のように期待することになる。」
������������ 「事前期待のマネジメントの実例・・・広げすぎた風呂敷をたたむ」
������������ お客様満足度向上の���つの方向


  • 失点をなくす ・お客様を怒らせない ・お客様を失望させない ・競合との差を詰める

  • 得点を増やす ・お客様の期待に応える ・お客様が思いもつかないサービスを提供する ・競合を大きく上回る

������������ 「サービスサイエンス的アプローチ」


  1. 観察する

  2. 分類・分解・モデル化

  3. 論理を明確にする

  4. 応用

������������ 「情報システム構築の目標のひとつは、お客様に電話のたらい回しの印象を与えないこと」


『あなたの獣』���井上荒野

あなたの獣
井上 荒野
角川グループパブリッシング  2008-11-29

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 櫻田哲生という男の生涯を描いた、10編の短編。

 構成が『ニシノユキヒコの恋と冒険』に似ている、と気づくほど読み進める前に、雰囲気が川上弘美に似ているな、と思って読み進めたら、途中、村上春樹か、と思わず突っ込みそうになった章があった。それはまあ、学生時代の話でカラダが奔放で仲間が死ぬから、というようなところの安易な連想かもしれないけど、このエピソードで登場する璃子が最終章まで引っ張られてるので、小さくない意義があるのだと思う。

 「あなたは、いつでも、どこにもいなかった。」というのは、男がよく女の人に言われる台詞のひとつだ。じゃあ、女の人は、どうであれば、一緒にいてると思うのだろう���このことを考えると、男の僕は息が詰まりそうになる。完全に言ったもん勝ちのロジックだからだ。その代わりに男という性の持っているアドバンテージはなんなのだろうか���そこを突き詰めていくと、こんなにしょうもない櫻田哲生が、これだけの女性の間を揺らぎながら生きてきた理由にちょっとだけ触れられるような気持ちになる。著者は女性だから、櫻田哲生に女の人が惹かれるところの描写は全部本当じゃないとしても、全部的外れではないだろう。

 金や地位といったもので好かれた女性は、金や地位が無くなったり、金や地位に飽きたりしたら、その男から離れていく。じゃあ、精神的なもので好かれた女性は、その精神に飽きたりしたら、その男から離れていく、ということだろうか���

������「二人で寝るには少し狭いセミダブルベッド」
���������「あなたは、いつも、どこにもいなかった。」
������������「少女は僕の隣に立って、まるで握手でも求めるみたいに、航のほうへ手を伸ばした。」


『チョコレート・アンダーグラウンド』���アレックス・シアラー

チョコレート・アンダーグラウンド
Alex Shearer 金原 瑞人
求龍堂  2004-05

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 選挙に勝利した「健全健康党」は、「りんごさくさく気分をどうぞ」を合言葉に、チョコレート禁止令を出した���町から甘いものがどんどん駆逐されていく。勇気ある少年、ハントリーとスマッジャーは、「健全健康党」に挑戦すべく、チョコレートの密造を始める���

 完全無欠の少年少女冒険活劇。なので、そこに込められている含意とか、解説を待たず読んだ人だれもがピンときて、納得できると思う。これだけ理想的な冒険ストーリーなのに、「水戸黄門」のような偉大なマンネリズムを観る安心感で読み進めるというのではなく、盛り上がりながら面白く読めるのは、健全健康党に立ち向かう手立てのディティールのリアルさと、それぞれの立場の人々の真理のリアルさだと思う。健全健康党に取り入りたいフランキー・クローリーのいやらしさとか、フランキーがそうしようとした理由、それにその理由を知っても用心してしまうスマッジャーの揺れとか、そんなスマッジャーなのにチョコバーを開催できて以降は有頂天になって油断してしまうところとか。どのタイミングでも、どちらか一方に簡単に事が流れない。ここが楽しめるポイントだと思う。

 『ノーと私』を読んだときにも思ったんだけど、イギリスやフランスの児童文学というのは、こんなに社会派なんだろうか���『ノーと私』は若いホームレスがテーマだったし、『チョコレート・アンダーグラウンド』ではアパシーなんかも取り上げられてて、「アパシー」という言葉までちゃんと出てくる。僕が小学生の頃読んだ児童文学で、社会問題を取り上げてたものってあっただろうか���現実の問題を取り上げたものというと、大抵が戦争ものだったように思う。「もう戦争はしてはいけません。こんなに悲惨なことになるのです」という。それ自体はとても意味のあることだと思うけど、それ以外は「夢と希望」みたいな感じだった気がする。もちろん人間にとって最も大切なのは「こころ」だけど、こころの外で何が起きているのかを見つめられないなら、それはただの根性論と同じじゃないか���引きこもりの問題はけして日本だけじゃないから、これと引きこもりを結びつける気はないけれど、こころの外を見つめられる根気というのが、今の空気全体に欠けているような気がした。

 この小説はスマッジャーがヒーローっぽいんだけど、読んでてずっと共感してたのはハントリー。主人公ってどっちかって言うとハントリーじゃないか���と思ってたら、人物紹介はハントリーが1番だった。スマッジャーとハントリーの親はどちらも果敢な親で、スマッジャーとハントリーに協力してくれるんだけど、こういうのを読むと「自分の親とは違うなあ」と一瞬思い、そのあと、いや待てよ、僕の両親も、僕のすることを止めたことなんて一度もなかったな、と、感謝の念がおきる。それだけで、ちょっと自分も成長できたかな、と思える。

���������「「どっちの党も同じようなもんだ。どうしようもない」父さんは言った。���だが、おそらく、同じではなかったのだ。」
���������「悪が栄えるためには、善人がなにもしないでいてくれればそれだけでいい」
���������「出すぎた善行なんてものはよけいなお世話だ。自分の考えを人に押し付けるってことだからな」
���������「多くの人たちはただ法律を守ろうとする市民で、求められるとおりに行動し、トラブルを好まないだけだ」
���������「あの党に「投票してはいなかった」」
������������「時間がたたないとわからないことだ。本屋でも、密売屋でも同じだ���先のことは、決してわからない。その瞬間を生きるしかない。」
������������「今では、おばさんをたしなめたことを悪いと思っていた。」
������������「今の状況でそんなことを言うのは子どもっぽくて恥ずかしい気がした。」
������������「人間らしさがいくらかえも無傷のまま残っている者、同情や哀れみが少しでも残っているものだけが、疑いをもち、あいまいなことに悩む。」
������������「その人の立場になったら自分がどうするかなんて、わからないだろう���」
������������「むりだと思う。そのことは考慮した上で、計画から除外した」
������������「頼みごとをするには最悪のタイミングしか残っていないことがよくある。そのときは、そのチャンスに賭けるしかないのだ。」
������������「若い人たちには、先に立つ者が必要かも知れない。」


ハントリー・リチャード・ハンター
スマッジャー���スティーヴィン���・ムーア
バビおばさん���ドリーン・バビ���
ジョン・ブレイズ
チャールズ・モファット
チョコレート捜査官
フランキー・クローリー
マートル・バーキンズ
キャロル・ハンター
カイリー・ムーア
ロン・ムーア
トリーシャ・ムーア
デイヴ・チェン
トバイアス・マロー


ヤクザマネ

ヤクザマネー
NHK「ヤクザマネー」取材班
講談社  2008-07-01

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���������「ヤクザマネー膨張の背景にあるのは、新興市場を推進した国の規制緩和政策である。」
���������「暴力団が資金を出し、運用はプロのトレーダーに任せる。」
���������「平成18年11月、日本証券業協会は警察庁などの関係機関とともに、証券保安連絡会を設立。」
���������「暴力団組織の男は、実際に、代表者をすげ替えたこともあると話した。それは、大証ヘラクレス市場への上場を目指していたある������企業だという。」
���������「よく顔の知られた現役の国会議員が、そこにいた。」
���������「何事も基礎固めが重要なのだ。」
���������「お互いの力量を計り合ったところで、本題を切り出した。」
���������「アパートの男性の背後に隠れていた裏の男。違和感の正体はこれだった。」
���������「この手の業界では知らぬ者はいない、大物の金融ブローカーである。���高木に取材した時点では、別の経済事件で東京地検特捜部から指名手配され逃亡を続けていた。手配の容疑は証券取引法���いまの金融商品取引法���違反の「風説の流布」。」
������������「ゼクーの元監査役、山本国貞氏」
������������「小川が逮捕された������平成������年秋」
������������「あの会社なんて全部暴力団のカネですよ。そこの会社を取材すればいいじゃないですか」
������������「我々がファンドで扱っているカネのすべてが暴力団のカネだっていうのなら話は別ですよ」
������������「田岡三代目組長は資本金���������万円で神戸芸能社を立ち上げ、戦後の庶民のわずかな楽しみのひとつだった歌謡界、芸能界をみずからの資金源にしようと動き出す。」
������������「やはり、流動性のある東証一部とか基本的に流動性の高い株に投資するのがまともなファンドであって、新興市場の国際的に名も知られていないような会社の株に投資する海外ファンドというのはどう見てもおかしい」


『THE BIG ISSUE JAPAN 117』

 「毎日が音楽」という、浅井博章のCDレビューコラムを毎号楽しみにしてるんだけど、���������号は上松秀美と加藤ミリヤが取り上げられてた。「心の闇と希望。閉塞感漂う今の時代のメッセージソング」というタイトル。上松秀美は、それこそ浅井博章もDJをつとめる802で耳にして「なんだこれは������」とびっくりしたくらい、メッセージ色の強い、それでいて唄いが今っぽくない、異色のインパクトの曲だった。
 浅井は、彼ら世代を、「物心のついた頃からすでにバブルが崩壊していた人たち」で、「この国に何の希望も、何の誇りも、見出せないでいるのかもしれない」と、理解の目を向ける。そして自分たちは、「一度でも景気のよかった時代を経験している」から、「目標がもてるだけまだましだ」とする。
 その上で、こう結ぶ。「最近の曲を聴いていると、少なくとも自分がそういう年代だった頃の曲にはあまりなかったような、諦念まじりのメッセージが感じられて、空しくなることがある」。

 「浅井っていくつだっけ���」と、コラムの紹介欄を見て驚いた。同い年なのだ。

 僕は、僕らの世代というのは、ずっと諦めが混じった世代だと思っていた。若くして覚めてしまったというか、そういう世代だと思っていた。ところが浅井の話を聞く限り、そうでもないらしい。これは個人的なものだったのだろうか���今の20歳前後の人たちと同じ諦念とは言わないけど、僕らの世代というのも、十分、この先にそれほど楽しいことがあるとは思えない、と思わされて社会に出さされた世代だと思ってたのだ。

 このあたりは即物的だけどバブルとどうしても紐づくのは否めない。目標ももてないような時代に生まれた世代の子たちが、何に憧れを抱くのかはちょっとわからないけれど、それでもやっぱりお金に目が眩むのだろうか���

『35歳から仕事で大切にしたいこと」���村井勉

35歳から仕事で大切にしたいこと―これからさき、成長していくために
村井 勉
あさ出版  2005-03

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������「最近の本はあまりに親切すぎて」
������「ミドルクラスというのは、己の頑張りだけではどうにもならぬ、と悟ることなのだ」
���������「ミドルクラスになるとどうしても”事なかれ主義”になりやすい」
���������「彼のアイデアが素晴らしいのは自動車学校に目をつけたことだ」
���������「同じ人物をいい面から見てみると必ず別の能力が発見できると思う」
���������「社員のやる気を失わせる要因として「甘え」「見栄」「ずるさ」「臆病」「寄りかかり根性」「知恵なし」…「会社に甘えた上司」「見栄をはる上司」…」
���������「会社の数字はトータルでは黒字だが実際の本業では赤字なんだ」
���������「アメリカは経営者と労働者は契約で結ばれていて、それを安易にかき回すと、組織の統制がとれなくなってぐちゃぐちゃになってしまうから」
������������「ミスの処理がうまい人というのは、オールラウンドな能力をもった人」
������������「「それは絶対に売れるのか���」「感覚だけでものを言ってもだめだ」「それが売れるという根拠は���」「データを示せ」「類似商品の前例はないのか���」これらのセリフはある意味禁句  
������������「ゆとりとけじめが必要」
������������「しかし限度には自分で責任を持つというのが無執」
������������「プロデュース能力というのは表に名前がなかなか出るものではないが、これからの時代ミドルクラスにもっとも必要な能力」
������������「それは値下げを納入業者にお願いすること」
������������「アメリカでは信用機関の仕組みが非常に発達」
������������「「自分が望んだものを手に入れられないことは不幸だ」と決め付けている」
������������「踊り場で学んだことは次のステージに活用しなければ意味がない」